筆者エッセイ
エクリプス(蝕)と転生 〜バンパイアの転生に関する考察〜
エクリプス(蝕)eclipseとは、光の遮断現象。日蝕、月蝕、そして星蝕。星蝕だけが掩蔽と称されるのだが、日蝕も構造的には掩蔽(occultation)である。
日蝕、ソーラーエクリプス。本来であれば、太陽の光の中を遮ることが出来るのは大地だけ。といっても、大地が太陽を遮るというよりは、太陽が自ら大地の下に沈むから天空は闇となり、そして太陽が昇ってくれば地上は再び光に包まれる。しかし、その絶対法則を揺るがすものが日蝕。そして、日蝕を引き起こす正体は、なんと月である。
満ち欠けする月は、太陽の光に呑み込まれて生まれ変わる。これが通常の新月(NewMoon)。しかし、新月の時に、月が影となって太陽の光を遮断してしまうと、日蝕が起こる。月による掩蔽。黄道と白道との交点(ドラゴンポイント)近くで起こる新月は日蝕になる。
古代、日蝕は太陽の死と考えられた。昼間、みるみると光を失っていく太陽を眺めれば、誰でもが異常なことだと感じるだろう。太陽が死滅したら、この世界はどうなるのか。日蝕により世界が消滅すると考えた民族も多く、だから日蝕では太陽の蘇りを願って、さまざまな儀式が行われた。太陽が消えれば、世界の秩序は崩壊してしまう。さらには、日蝕が魔性の者の力を強める、天変地異の前触れ、といった想像も自然と生まれてくるわけで、日蝕はとにかく恐れられたのである。
となると、太陽の復活が切望される。その復活には代償が必要なこともある。古代では、天の怒りを鎮めるために、古い支配者を廃して、新たな支配者をたてるようなことも行われたらしい。それにより世界は蘇るのである。いや、なんとかして蘇らせる、といったほうが正しいのだろうけれど。
秩序が保たれた世界では、いつものように太陽が昇り、そして太陽が沈んでいく。月が満ち欠けし、天空と地上の季節が巡り・・・。その時の巡りの中で、人は生まれ、次の生命を生み出し、そして年老いて死んでいく。通常は、世代交代によって生命が受け継がれていく。
しかし、交代ではなく、いつしか再生という考え方が生じるようになる。再生、あるいは復活。その構造が、転生(reincarnation)を生み出したのである。
通常はありえない日蝕による太陽の死と復活。つまり、これこそが再生なのだ。ただし、太陽は復活できるが、人は復活できない。(復活の呪文は効かないのだ。)できるとしたら、転生しかない。そこから蝕の周期を司るドラゴンポイントが転生と関連付けて考えられるようになったのだろう。
魔性の者の代表ともいえる存在、バンパイア。定義にはいろいろあってまぎらわしいが、まず、アンデッド。そして年を取らない。太陽の光が苦手な彼らは、闇の支配者であると考えられている。太陽が苦手というよりも、太陽の光を浴びると(たぶん)年をとるのだ。光を浴びないでいると、時の流れがカウントされず、永遠の夜の中で年をとらない、という考え方なのだろう。それは、永遠の眠りの中で年を取らないエンディミオンを思いおこさせる。
バンパイアへの憧れは、つまりはアンチエイジングへの憧れでもある。バンパイアは、生命力(新鮮な血液)を摂取することにより、永遠の命を保つ魔性の者。となると、子孫を残さないはず。なぜなら、永遠の生命を持つから。(注・バンパイアが人間との間にダンピールと称される子供を作るという説があるが、これは当然、後から生み出された創作。)
アンデッドは、一種の復活者である。つまり、死者ではない。でも、生者でもない。死すべき運命の人間に対し、死を超越した永遠の存在。つまり、時の仕組みの中に存在しない者と考えてもよく、ゆえに魔性。永遠という意識が人格化した存在がバンパイアだといったほうがいいのかも知れない。血を吸うというおぞましい行為が伴うかどうかは、また別問題として。
さて、バンパイアは死ぬことはないが消滅する。それは、復活を伴わない消滅であって、たいていアッシュ(灰化)してしまう。(復活を信じない消滅というべきなのかも知れないけれど。)
太陽の死と蘇り、つまり日蝕にも実は大きな周期がある。サロス周期(18年と11日)である。BC585年、日蝕を予言したのはタレス(Thales)だが、ストーンヘンジを作った古代民族たちも、たぶん、蝕の周期性に気づいていたのではないかと思う。(ただし、3サロス周期、約54年という大きな時の単位で。)
とにかく、日蝕は人心を惑わすものだったので、支配者にとってはやっかいな現象だった。日本でも陰陽師たちの仕事のひとつに、蝕の予言があったぐらいだし(外れることも多かったけれど)、古代中国では、紀元前2697年に日蝕を予言できなかったという理由で処刑されてしまった天文官(占い師)もいた。
日蝕が地上に落とす闇の軌跡。その軌跡には、実は寿命がある。それは、ある特定のドラゴンポイントの元に生じる蝕(ある特定の星座宮で生じる蝕とかなり近い意味になる)を並べて見るとわかるのだが、蝕は小さな部分蝕として発生する。そして皆既蝕に成長する。そして小さくなり、再び部分蝕となって消滅するのである。発生から消滅まで、だいたい1200年ぐらい。(テオドル・オポルツアー、日蝕の基準)。
日蝕の闇の軌跡すらも、地上では命を与えられる。復活を繰り返すその周期。しかし、その周期にもいつしか消滅という終りが訪れる。その大きな闇は、永遠に転生しない。
参考文献:星空への旅 エリザベート・ムルデル著 市村温司訳 人智出版社
日蝕、ソーラーエクリプス。本来であれば、太陽の光の中を遮ることが出来るのは大地だけ。といっても、大地が太陽を遮るというよりは、太陽が自ら大地の下に沈むから天空は闇となり、そして太陽が昇ってくれば地上は再び光に包まれる。しかし、その絶対法則を揺るがすものが日蝕。そして、日蝕を引き起こす正体は、なんと月である。
満ち欠けする月は、太陽の光に呑み込まれて生まれ変わる。これが通常の新月(NewMoon)。しかし、新月の時に、月が影となって太陽の光を遮断してしまうと、日蝕が起こる。月による掩蔽。黄道と白道との交点(ドラゴンポイント)近くで起こる新月は日蝕になる。
古代、日蝕は太陽の死と考えられた。昼間、みるみると光を失っていく太陽を眺めれば、誰でもが異常なことだと感じるだろう。太陽が死滅したら、この世界はどうなるのか。日蝕により世界が消滅すると考えた民族も多く、だから日蝕では太陽の蘇りを願って、さまざまな儀式が行われた。太陽が消えれば、世界の秩序は崩壊してしまう。さらには、日蝕が魔性の者の力を強める、天変地異の前触れ、といった想像も自然と生まれてくるわけで、日蝕はとにかく恐れられたのである。
となると、太陽の復活が切望される。その復活には代償が必要なこともある。古代では、天の怒りを鎮めるために、古い支配者を廃して、新たな支配者をたてるようなことも行われたらしい。それにより世界は蘇るのである。いや、なんとかして蘇らせる、といったほうが正しいのだろうけれど。
秩序が保たれた世界では、いつものように太陽が昇り、そして太陽が沈んでいく。月が満ち欠けし、天空と地上の季節が巡り・・・。その時の巡りの中で、人は生まれ、次の生命を生み出し、そして年老いて死んでいく。通常は、世代交代によって生命が受け継がれていく。
しかし、交代ではなく、いつしか再生という考え方が生じるようになる。再生、あるいは復活。その構造が、転生(reincarnation)を生み出したのである。
通常はありえない日蝕による太陽の死と復活。つまり、これこそが再生なのだ。ただし、太陽は復活できるが、人は復活できない。(復活の呪文は効かないのだ。)できるとしたら、転生しかない。そこから蝕の周期を司るドラゴンポイントが転生と関連付けて考えられるようになったのだろう。
魔性の者の代表ともいえる存在、バンパイア。定義にはいろいろあってまぎらわしいが、まず、アンデッド。そして年を取らない。太陽の光が苦手な彼らは、闇の支配者であると考えられている。太陽が苦手というよりも、太陽の光を浴びると(たぶん)年をとるのだ。光を浴びないでいると、時の流れがカウントされず、永遠の夜の中で年をとらない、という考え方なのだろう。それは、永遠の眠りの中で年を取らないエンディミオンを思いおこさせる。
バンパイアへの憧れは、つまりはアンチエイジングへの憧れでもある。バンパイアは、生命力(新鮮な血液)を摂取することにより、永遠の命を保つ魔性の者。となると、子孫を残さないはず。なぜなら、永遠の生命を持つから。(注・バンパイアが人間との間にダンピールと称される子供を作るという説があるが、これは当然、後から生み出された創作。)
アンデッドは、一種の復活者である。つまり、死者ではない。でも、生者でもない。死すべき運命の人間に対し、死を超越した永遠の存在。つまり、時の仕組みの中に存在しない者と考えてもよく、ゆえに魔性。永遠という意識が人格化した存在がバンパイアだといったほうがいいのかも知れない。血を吸うというおぞましい行為が伴うかどうかは、また別問題として。
さて、バンパイアは死ぬことはないが消滅する。それは、復活を伴わない消滅であって、たいていアッシュ(灰化)してしまう。(復活を信じない消滅というべきなのかも知れないけれど。)
太陽の死と蘇り、つまり日蝕にも実は大きな周期がある。サロス周期(18年と11日)である。BC585年、日蝕を予言したのはタレス(Thales)だが、ストーンヘンジを作った古代民族たちも、たぶん、蝕の周期性に気づいていたのではないかと思う。(ただし、3サロス周期、約54年という大きな時の単位で。)
とにかく、日蝕は人心を惑わすものだったので、支配者にとってはやっかいな現象だった。日本でも陰陽師たちの仕事のひとつに、蝕の予言があったぐらいだし(外れることも多かったけれど)、古代中国では、紀元前2697年に日蝕を予言できなかったという理由で処刑されてしまった天文官(占い師)もいた。
日蝕が地上に落とす闇の軌跡。その軌跡には、実は寿命がある。それは、ある特定のドラゴンポイントの元に生じる蝕(ある特定の星座宮で生じる蝕とかなり近い意味になる)を並べて見るとわかるのだが、蝕は小さな部分蝕として発生する。そして皆既蝕に成長する。そして小さくなり、再び部分蝕となって消滅するのである。発生から消滅まで、だいたい1200年ぐらい。(テオドル・オポルツアー、日蝕の基準)。
日蝕の闇の軌跡すらも、地上では命を与えられる。復活を繰り返すその周期。しかし、その周期にもいつしか消滅という終りが訪れる。その大きな闇は、永遠に転生しない。
秋月さやか
参考文献:星空への旅 エリザベート・ムルデル著 市村温司訳 人智出版社
夢についてのノート > 筆者エッセイ エクリプス(蝕)と転生 〜バンパイアの転生に関する考察〜
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https://www.moonlabo.com/cafe/dream/?OpDv=pEclipseArticle_1