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その正体が…問題なのだった

 山国の春は遅い。なにせ我が家は、標高千mの高地なのだ。5月の連休だって、霙が降ることはよくある。
 それでも、ようやく冬眠からめざめた蛇の姿が、石や草の間を、にょろりん、と通っていく季節。まだ草がちょぼちょぼと生えているぐらいだから、地面の様子がよくわかるのだ。
 
 どうやらこのあたりは、昔から蛇が多かったらしく、蛇がらみの民話がやけに多い。
 いや、蛇がらみの民話はどこにだってある。野にも山にも水辺にも、蛇はいるからだ。だいたい、蛇が恐くて、田舎暮らしはできない。蛇はお隣さん、ぐらいの感覚が、田舎暮らしの極意である。
 
 さて、昔々あるところ…。
 ある村の茶店だか宿屋だかに、ひとりの娘がやってきた。「どうかここで働かせてくださいませんか」と言う。飛び込み面接である。器量良しなので、まあ、雇ってやろう、ということになった。
 娘はとてもよく働き、客の評判も良かった。店も、良い子がきてくれた、と大喜び。
 しかしそのうち、夜、娘がこっそりと店を抜け出してどこかに行っているらしいことがわかる。まあ、恋人でも出来たのだろうと、店の者は思っていた。
 果たしてそのとおり。娘は、近隣の若者と仲良くなって、密会を重ねていたのである。
 

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 が、娘がある時、若者にこう告げる。「ごめんなさい、私、もう、あなたと会うことはできません。」
 驚く若者。「どうしてですか?私のことが嫌いになったのですか?」「いいえ、そんなことはありません。でも…」「でも、なんですか?なぜ会えないのですか?」
 とまあ、「会えない」→「なぜ?」→「嫌いになった?」→「いいえ…」→「じゃあナゼ?」という、よくある会話。
 
 「教えてください!どうしてもう会えないのですか?」と詰め寄る若者。娘は意を決して、告げます。
 「私…人間ではないのです。」
 (2人の間にしばし沈黙)
 そして若者から、意外な答え。「実は…私も人間ではありません。」
 (再び沈黙)
 「私は…実は大蛇でございます。」と娘。
 「そうでしたか!それは良かった!」と若者。
 
 つまりね、若者も大蛇だったんです。蛇同士、何の問題もなかった、というわけなんですよ。いや、めでたしめでたし。
 
 だってね、もしも「私、大蛇でございます。」「あ、マズイ。俺、蛙なんだ。見逃して。」では、笑い話…あ、いいえ、悲恋になってしまいますから。いや〜、よかったね。お互い蛇で!
 
 (蛇の写真を・・・と思ったのですが、ヤメました。蛇、というだけで反射的に嫌悪感を感じる人が多いようなので。
 昔、知人に、「この記事、面白いから」と雑誌を見せたのですが、彼女、いきなり、雑誌を放り投げました。「どうしたの?」と、聞いたら、「蛇の写真が載っている!」と、泣き出しそうな表情。ああ、太母神の話題なので、蛇の写真が載っていたわけですが・・・。蛇の写真など載せると、いきなり携帯端末を放り出す人が・・・いないとも限りませんので。
 というわけで、早春の山里の風景をお楽しみください。)

秋月さやか


写真:沼原湿原にて撮影

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