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筆者エッセイ

学校の怪談

 夏の風物詩、怪談。怪談といえば、学校にはなぜか怪談がつきもの。
 
 さて、私の出身高校(都立)の下は、たぶん墓場なのではないかという話は、在学中から聞いてはいました。なぜなら、そこは古くから、寺の敷地の一角だったため。荒れ放題の敷地の片隅に、関東大震災の次の年に校舎が建てられたのです。
 
 そして私の卒業後、しばらくたって、校舎の立替の際に、それがはっきりと判明しました。校舎の土台を壊した下から、おびただしい墓石が発見され、急遽、発掘作業が始まったのです。簪や櫛、茶碗のかけら、そして棺桶、人骨。発掘された品物からすると、江戸時代後期の墓地だった可能性が高いとのこと。
 発掘は、何年間も続きました。私の後輩たちの中で当時暇だったメンバーは、軍手と歯ブラシを手に、発掘アルバイトに携わっていたようです。
 
 発掘中の夏休み、私は、高校時代の友人と、近くを通りかかりました。校舎は跡形もなく、土が掘り返された敷地で黙々と作業する10人ほどの若者たち。うるさいほどのセミの声と車の音。まぶしく明るい夏の陽射し。
 200年近くも地中に埋まっていた木片や石のかけらが掘り返され、陽射しの下にさらされていきます。
 掘れば掘るほど、過去に遡っていく地層。何もしないで放っておいても、地層はどんどん降り積もり、過去は埋もれていきます。墓場は、それ自体が、タイムカプセルエリア。寺の片隅にあった墓地の上に積もっていった200年間の時。江戸元禄、幕末、明治維新、関東大震災、そして空襲、戦後、学生紛争…。
 これまで200年間の地中の眠りから覚め、明るい陽射しの下で、それははっきりと歴史になっていく。私は、地中で長らく過ごしたセミの羽化を思い浮かべました。

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 ところで、墓場の上に建っていた高校にもかかわらず、普通のよくある学校の怪談がささやかれたことは、まったくありませんでした。
 「でも、墓暴きなんかしたら…幽霊出ちゃうかも。」と、友人。「それ、セミとセミの抜け殻との関係性のようなもので、空蝉(抜け殻)には、もう魂は宿っていないような気がするんだけど」と私。
 その後、学校の近くを2人で歩きました。「△△湯は、マンションになっちゃったんだ」「このコンビニ、もしかして誰々ちゃんち?」「あ〜、あのお店がなくなっちゃった〜」と、いちいちびっくり。その頃、いわゆる再開発で、昔の建物はどんどん取り壊されていきました。土地の相続税が払えなくて郊外に転居していった家もあったようです。
 
 「幽霊が出てきても、もう道がわからないかも。もし、そこのお方、湯島天神へはどう行けばよろしいのでございましょう?なんて聞かれたら…」「さっさと千代田線の駅、教えてあげればいいんじゃない?」
 
 残念ながら私には幽霊は見えませんので、迷子になっている幽霊に道を教えてあげることはできません。でも、もしも不忍通りの交差点あたりに、ひっそりと幽霊が佇んでいるとしたら…。「もしもし、現代ってどう思いますか?」と、そう聞いてみたいかなあ、なんて思うことはあります。
 
 写真は、旧盆前、本家墓参の際に、越後高田で撮影。

秋月さやか

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