筆者エッセイ
結婚のカクゴって!?
昔、両親が結婚式の仲人をすることになった。職場結婚、父は2人の上司だったので。当初、2人の実家は結婚を反対したそうである。お互いの実家が遠く、生活風習が違いすぎる、という理由で。しかし、父が2人の実家を説得、渋々了解をとりつけたという。ある日曜日の午後、式の打ち合わせにやってきた2人に、父は言った。「一緒になりたくてなるんだから、多少の苦労は覚悟の上だよな。」と。「はい、もちろんです。いろいろとありがとうございます。」と、神妙に涙ながらに頭を下げる2人。
なにやら大変なことが起こっているらしいと、当時、幼稚園児だった私は感じた。苦労はカクゴのうえ? カクゴってあれだよね?正義の味方が悪者を退治する時に言うセリフ。「さあ、カクゴしろ〜!」
となれば、カクゴしてするケッコンって・・・。いったい何をカクゴするのだろう? パンパカパーンのウェイディングマーチ、金屏風の華やかな演出の裏には、なにやら重大な謎が隠されているらしい。
「ケッコンって何?」と、私は父に聞いた。「男女が夫婦になること。」と父は答えた。
「フーフって何?」「結婚した男女のこと。」
「じゃあケッコンって何?」「さっき教えたろ。男女が夫婦になること。」
「だからフーフって何?」「さっき答えたろ。結婚した男女のこと。」
「だ〜か〜ら〜! ケッコンって〜???」「そうだな〜、大人になればわかる。」
と、父は言った。大人が子供の質問に詰まった時の常套句。
でもたしかに。結婚が何であるのか、それは子供にはわからないだろう。子供が知っている結婚は、ほとんど結婚式場のイメージ写真である。
結婚式で、「いいわね〜素敵。羨ましい」とうっとりした顔をしているのは、たいていが未婚者。
拍手をしながらも「大丈夫かしらね〜」と、どこか心配な表情を浮かべているのはたいていが既婚者。そしてそれこそが、イメージ写真と現実の違いなのだろう。
広辞苑をひくと、こんなふうに書いてある。
【結婚】男女が夫婦となること。・・・なるほど、父の答えは正しかった。
そして、夫婦については・・・。
【夫婦】�@夫と妻。めおと。�A〔法〕適法の婚姻をした男女の身分。
結婚や夫婦についての定義を調べていくと、これがなかなか複雑。問題は「適法の婚姻」という部分。つまり、夫婦とは社会的に認められた身分であるが、その法的な条件が、時代によって変わっているのである。じゃあ結婚ってナニ?
といっても、結婚の定義についてはっきり答えられる人なんて誰もいないだろう、と思う。だいたい、私も、よくわからないよな〜と思うことが多いので(笑)。
歴史小説に登場するさまざまな結婚の形を考えるに、たぶん、結婚には3つの形がある。自立婚、家付き婚、妻(夫)問い婚。
「自立婚」。現在の結婚の形はおおむねこれ。
夫婦で独立した戸籍を作り、住居を定め、家計を共にする。夫婦単位での自立。だから、自立婚。もちろん、古い時代にも、そういう結婚の形をとって暮らしていた夫婦はいるはずで、ある意味、基本的な結婚の形。2人だけで何もないところから始める新婚生活。動物の若い雄雌が、群れから離れて2匹で巣を作り始めるイメージ。たしかにそれなりにカクゴが必要。困っても他の人は誰も助けてくれないし。
それに対する「家付き婚」。
こういう名称があるかどうかは知らないけれど、つまり、家系存続のための結婚。嫁取り、あるいは婿入りといったように、男女のどちらかが家へ入り、同じ名字になる。 嫁を取るだけが婚姻ではない。婿取りもある。私の実家の曾祖母は婿取り。最近も結構増えてきているようである。嫁取りの場合、結婚式の費用は嫁入り先の家が持つ。婿取りは、婿入り先の家が持つ。もちろん、家があることが前提なので、寝るところや食べるものにも困らない(はず)。夫婦に子供がいなければ、養子を取って存続させる。家付き婚の場合、嫁、婿といった他人が家族として認めてもらうためには、いろいろと苦労もあり、かなりのカクゴが必要である。舅、姑も、もれなくついてくる。婚家の家族になるために、実家との縁は切ってやってくるわけであるが、しかし歴史の中では、人質として娘を嫁に出す家もあったし、政治的な理由で息子を婿養子に出す家もあった。
さて、古い時代の結婚といえば、「妻(夫)問い婚」。
大家族の娘のところに男が通ってくる。つまり夜這い。しばらくすると子供を授かる。子供は将来の大切な労働力で、もちろん、娘の家族が増えることになるわけ。娘、そしてその子供を養うのは、娘の家。親権は完全に娘の実家に(注・娘ではなく娘の実家)にある。この場合、生まれ育った家から他家へ嫁いだり、婿入りしたりはしない。従って、夫婦が一緒に暮らすこともなく、2人の名字は別々。女が男の家を訪ねる結婚も、たぶん、(数は少ないけれど)あったに違いなく、その場合、「夫問い婚」となる。
なるほど、妻(夫)問婚なら、そんなにカクゴって必要ないかも。好きな相手同士、年頃になれば相手を見つけ、若すぎると反対されることもないだろうし。ただしこの場合、実家との縁は大切である。
「古い時代の結婚といえば・・・」と書いたけれど、現代にもこの妻問い婚形は再び蘇っているようである。
叔母の知人の娘さんが結婚したという。そして結婚から1年たたないうち、お産のために彼女は里帰りしてきた。そして、それからずっと・・・実家で暮らしているという。「離婚したとも聞いていないんだけど・・・でもやっぱり離婚したのかしら?」と叔母は心配そうに言葉を濁す。「もう3年ぐらいたつかしら。だって、子供はもう歩いているのよ。」と叔母は言う。といっても、実家は大喜びらしい。つまり、孫を連れて娘が戻ってきてくれたわけで。
なるほど、これは結局のところ、「夫問い婚」と考えられるかも知れない。
そう、現代でも、実質的に妻(夫)問い婚は存続しているし、むしろ復活の兆しなのではないか、と。
結婚の形はさまざま。自立婚、家付き婚、妻(夫)問い婚。そしてこれらが適当に混じったような形。カクゴがあってもなくても、自分に合わせた形を選べばよいのではないでしょうか。
参考文献: 広辞苑第四版 新村出編 岩波書店
なにやら大変なことが起こっているらしいと、当時、幼稚園児だった私は感じた。苦労はカクゴのうえ? カクゴってあれだよね?正義の味方が悪者を退治する時に言うセリフ。「さあ、カクゴしろ〜!」
となれば、カクゴしてするケッコンって・・・。いったい何をカクゴするのだろう? パンパカパーンのウェイディングマーチ、金屏風の華やかな演出の裏には、なにやら重大な謎が隠されているらしい。
「ケッコンって何?」と、私は父に聞いた。「男女が夫婦になること。」と父は答えた。
「フーフって何?」「結婚した男女のこと。」
「じゃあケッコンって何?」「さっき教えたろ。男女が夫婦になること。」
「だからフーフって何?」「さっき答えたろ。結婚した男女のこと。」
「だ〜か〜ら〜! ケッコンって〜???」「そうだな〜、大人になればわかる。」
と、父は言った。大人が子供の質問に詰まった時の常套句。
でもたしかに。結婚が何であるのか、それは子供にはわからないだろう。子供が知っている結婚は、ほとんど結婚式場のイメージ写真である。
結婚式で、「いいわね〜素敵。羨ましい」とうっとりした顔をしているのは、たいていが未婚者。
拍手をしながらも「大丈夫かしらね〜」と、どこか心配な表情を浮かべているのはたいていが既婚者。そしてそれこそが、イメージ写真と現実の違いなのだろう。
広辞苑をひくと、こんなふうに書いてある。
【結婚】男女が夫婦となること。・・・なるほど、父の答えは正しかった。
そして、夫婦については・・・。
【夫婦】�@夫と妻。めおと。�A〔法〕適法の婚姻をした男女の身分。
結婚や夫婦についての定義を調べていくと、これがなかなか複雑。問題は「適法の婚姻」という部分。つまり、夫婦とは社会的に認められた身分であるが、その法的な条件が、時代によって変わっているのである。じゃあ結婚ってナニ?
といっても、結婚の定義についてはっきり答えられる人なんて誰もいないだろう、と思う。だいたい、私も、よくわからないよな〜と思うことが多いので(笑)。
歴史小説に登場するさまざまな結婚の形を考えるに、たぶん、結婚には3つの形がある。自立婚、家付き婚、妻(夫)問い婚。
「自立婚」。現在の結婚の形はおおむねこれ。
夫婦で独立した戸籍を作り、住居を定め、家計を共にする。夫婦単位での自立。だから、自立婚。もちろん、古い時代にも、そういう結婚の形をとって暮らしていた夫婦はいるはずで、ある意味、基本的な結婚の形。2人だけで何もないところから始める新婚生活。動物の若い雄雌が、群れから離れて2匹で巣を作り始めるイメージ。たしかにそれなりにカクゴが必要。困っても他の人は誰も助けてくれないし。
それに対する「家付き婚」。
こういう名称があるかどうかは知らないけれど、つまり、家系存続のための結婚。嫁取り、あるいは婿入りといったように、男女のどちらかが家へ入り、同じ名字になる。 嫁を取るだけが婚姻ではない。婿取りもある。私の実家の曾祖母は婿取り。最近も結構増えてきているようである。嫁取りの場合、結婚式の費用は嫁入り先の家が持つ。婿取りは、婿入り先の家が持つ。もちろん、家があることが前提なので、寝るところや食べるものにも困らない(はず)。夫婦に子供がいなければ、養子を取って存続させる。家付き婚の場合、嫁、婿といった他人が家族として認めてもらうためには、いろいろと苦労もあり、かなりのカクゴが必要である。舅、姑も、もれなくついてくる。婚家の家族になるために、実家との縁は切ってやってくるわけであるが、しかし歴史の中では、人質として娘を嫁に出す家もあったし、政治的な理由で息子を婿養子に出す家もあった。
さて、古い時代の結婚といえば、「妻(夫)問い婚」。
大家族の娘のところに男が通ってくる。つまり夜這い。しばらくすると子供を授かる。子供は将来の大切な労働力で、もちろん、娘の家族が増えることになるわけ。娘、そしてその子供を養うのは、娘の家。親権は完全に娘の実家に(注・娘ではなく娘の実家)にある。この場合、生まれ育った家から他家へ嫁いだり、婿入りしたりはしない。従って、夫婦が一緒に暮らすこともなく、2人の名字は別々。女が男の家を訪ねる結婚も、たぶん、(数は少ないけれど)あったに違いなく、その場合、「夫問い婚」となる。
なるほど、妻(夫)問婚なら、そんなにカクゴって必要ないかも。好きな相手同士、年頃になれば相手を見つけ、若すぎると反対されることもないだろうし。ただしこの場合、実家との縁は大切である。
「古い時代の結婚といえば・・・」と書いたけれど、現代にもこの妻問い婚形は再び蘇っているようである。
叔母の知人の娘さんが結婚したという。そして結婚から1年たたないうち、お産のために彼女は里帰りしてきた。そして、それからずっと・・・実家で暮らしているという。「離婚したとも聞いていないんだけど・・・でもやっぱり離婚したのかしら?」と叔母は心配そうに言葉を濁す。「もう3年ぐらいたつかしら。だって、子供はもう歩いているのよ。」と叔母は言う。といっても、実家は大喜びらしい。つまり、孫を連れて娘が戻ってきてくれたわけで。
なるほど、これは結局のところ、「夫問い婚」と考えられるかも知れない。
そう、現代でも、実質的に妻(夫)問い婚は存続しているし、むしろ復活の兆しなのではないか、と。
結婚の形はさまざま。自立婚、家付き婚、妻(夫)問い婚。そしてこれらが適当に混じったような形。カクゴがあってもなくても、自分に合わせた形を選べばよいのではないでしょうか。
秋月さやか
参考文献: 広辞苑第四版 新村出編 岩波書店
筆者エッセイ > 筆者エッセイ 結婚のカクゴって!?
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