筆者エッセイ
「こんにちは」と「こんにちわ」
子供の頃、「ちゃっす〜」と言いながら配達にやってくる燃料店のオニイサンがいた。「ちゃっす〜」って変な言葉。たぶん「茶はいいっす〜」と、お茶の接待をお断りする言葉、つまり「おかまいなく」という意味なのではないか?と私は推測した。
「ね〜ね〜、ちゃっす〜、ってどういう意味?」
「チャッス?ちがうよ、ちわっす!」
「チワッス? なにそれ?シュワッチの仲間?」
「違うな〜。いや、どうかな〜? かもな〜。」
「じゃ〜ナニ?どういう意味?」
「ん〜、意味? 特別な意味なんてないかな。」
「意味ないわけないじゃん。教えてよ。」
「あ〜、意味ねえ・・・」
「ソレ、子供が聞いちゃいけないことなの〜? ジューハッキン? コームシッコーボーガイ?」
「いや、ホーソーキンシヨーゴでもなんでもないって。こんにちは、の略。フツーの言葉だろ?」
「ええ〜、なんで、こんにちはがチャッスになるの?意味通じないのに、なんで〜!」とさらにシツコク問い詰める私に、オニイサンはこう言った。 「通じるよ。これは公用語だぞ、みんな知ってるの。」
ま、公用語っていうのは嘘。でも、「チワッス」(ChiWassu)が、日本人男性のカジュアルな挨拶の言葉だと知っているほうが、たしかに日本での生活には便利。
「コンニチハ」を「コンチハ」よりも短く略して「チハ」、そして「です」にあたる「っす」を付けて「チハっす」。つまり「こんにちはです」の略が「チハッス」なのですが・・・「チハっす」が「チワっす」になってしまっている点にご注目。
先日、某編集部に占い原稿を送った。
「みなさまこんにちわ、秋月さやかです。春、花の季節。花びらを1枚ずつ・・・ナントカカントカ。そして最後に残った花びらが・・・ホンニャラカンニャラ。」
すると、担当者からメールでこう指摘された。
「秋月さやか様
さっそく御原稿をお送りいただきありがとうございました。
(中略)
文字づかいは「原稿のまま」を基本といたしますが、掲載誌の読者層を考慮し、以下の編集部希望につきましてご判断を仰ぐ所存です。
【変更希望箇所】
(冒頭文) こんにちわ→こんにちは」
はい。よくぞご指摘くださいました!
「こんにちわ」×。「こんにちは」○。
「こんにちは」は「今日は」。つまり「今日、私とあなたとは出会っておりますね。」という確認の挨拶。
「こんにちは」の発音は現代日本語では「KonNiChiWA」。「は」なのに「Wa」。現代日本語では助詞の「は」は「Wa」と発音する。つまり、「こんにちは」は書き言葉、「コンニチワ」は話し言葉の表記。
(平安時代のはじめぐらいまでは、助詞の「は」は「ハ」と発音されていたという。ただし、厳密には今のHaとは異なる発音だったらしく、たぶんゥワとかゥアというような発音だったらしい。)
とにかく、時代の中でしだいに発音が変化、「こんにちは」は「KonNiChiWA」に。最近「Wa」にアクセントを置いて発音する傾向も出てきているようで、はっきりと「コンニチワ!」と聞こえるようになり、「こんにちは」は「こんにちわ」と書いても通じるようになってきているのである。
さて、なぜ私が「こんにちわ」と書くようになったかというと・・・。それは、今からかなり前の出来事が原因。
「みなさま、こんにちは。今月は金星がナントカカントカで、火星がホンニャラカンニャラで・・・」という原稿を某編集部に送ったところ、編集担当者から指摘。
「秋月さやか先生
『こんにちは』と『こんにちわ』の2つの言葉遣いがあるかと思いますが、一般に若い年代層はコンニチワで、35歳以上はコンニチハが多いということです。今回お願いしております掲載誌は20代の女性が中心となります。できましたら、若い年齢層にアピールするようなイメージで・・・」
つまり、若い子向けに「こんにちわ」に書き換えてください、という依頼である。「こんにちは」という言葉遣いでは、なんとなく年配者の説教っぽくなってしまうので・・・という懸念らしい。「こんにちわ」って間違っていますよ、とも伝えたのだが、担当者は引き下がらなかった。「言葉は時代と共に変わります!」というのである。たしかに。そして私は文部省ではない。従って「こんにちわ」をOKするしかなくなった。仕事を失うわけにはいかず、渋々。
「秋月さやかという筆者は、正しい日本語が書けないヤツである」と評されるだろう、という恐れは当然あった。たぶん、どこか陰ではそう評されていたに違いないのだが、それは特に問題にもならず、そしてそのうち、私はそんなことはどうでもよくなってきた。なぜなら、「こんにちわ」をはるかに越えるような日本語事件に多々遭遇するようになり、「こんにちわ」がちっとも気にならなくなっていったのである。
・・・ということを、私は久々に思い出した。そう。ちょっと忘れかけていた。
改めて字面を見直してみると・・・「こんにちわ」のほうが「こんにちは」に比べると、溌剌として愛嬌のある雰囲気である。
「わ」のところで、口をしっかりと開けてニコッと笑顔を見せているような雰囲気すらあり、うん、カワイイ。「こんにちわっ!」と、溌剌とした若い女の子のイメージである。
それに比べると「は」は、端正で丁寧だけれど、スキがない女性のような雰囲気。「いらっしゃいませ。こんにちは。」とすっと挨拶されるようなイメージ。
う〜ん、どっちの女性のほうがいいのだろうか・・・。どうも最近、「こんにちわ」のほうが可愛らしい、と心惹かれるようになっているみたいです、私。
参考文献: 「よくわかる音声」 松崎寛 河野俊之 (株)アルク
「ね〜ね〜、ちゃっす〜、ってどういう意味?」
「チャッス?ちがうよ、ちわっす!」
「チワッス? なにそれ?シュワッチの仲間?」
「違うな〜。いや、どうかな〜? かもな〜。」
「じゃ〜ナニ?どういう意味?」
「ん〜、意味? 特別な意味なんてないかな。」
「意味ないわけないじゃん。教えてよ。」
「あ〜、意味ねえ・・・」
「ソレ、子供が聞いちゃいけないことなの〜? ジューハッキン? コームシッコーボーガイ?」
「いや、ホーソーキンシヨーゴでもなんでもないって。こんにちは、の略。フツーの言葉だろ?」
「ええ〜、なんで、こんにちはがチャッスになるの?意味通じないのに、なんで〜!」とさらにシツコク問い詰める私に、オニイサンはこう言った。 「通じるよ。これは公用語だぞ、みんな知ってるの。」
ま、公用語っていうのは嘘。でも、「チワッス」(ChiWassu)が、日本人男性のカジュアルな挨拶の言葉だと知っているほうが、たしかに日本での生活には便利。
「コンニチハ」を「コンチハ」よりも短く略して「チハ」、そして「です」にあたる「っす」を付けて「チハっす」。つまり「こんにちはです」の略が「チハッス」なのですが・・・「チハっす」が「チワっす」になってしまっている点にご注目。
先日、某編集部に占い原稿を送った。
「みなさまこんにちわ、秋月さやかです。春、花の季節。花びらを1枚ずつ・・・ナントカカントカ。そして最後に残った花びらが・・・ホンニャラカンニャラ。」
すると、担当者からメールでこう指摘された。
「秋月さやか様
さっそく御原稿をお送りいただきありがとうございました。
(中略)
文字づかいは「原稿のまま」を基本といたしますが、掲載誌の読者層を考慮し、以下の編集部希望につきましてご判断を仰ぐ所存です。
【変更希望箇所】
(冒頭文) こんにちわ→こんにちは」
はい。よくぞご指摘くださいました!
「こんにちわ」×。「こんにちは」○。
「こんにちは」は「今日は」。つまり「今日、私とあなたとは出会っておりますね。」という確認の挨拶。
「こんにちは」の発音は現代日本語では「KonNiChiWA」。「は」なのに「Wa」。現代日本語では助詞の「は」は「Wa」と発音する。つまり、「こんにちは」は書き言葉、「コンニチワ」は話し言葉の表記。
(平安時代のはじめぐらいまでは、助詞の「は」は「ハ」と発音されていたという。ただし、厳密には今のHaとは異なる発音だったらしく、たぶんゥワとかゥアというような発音だったらしい。)
とにかく、時代の中でしだいに発音が変化、「こんにちは」は「KonNiChiWA」に。最近「Wa」にアクセントを置いて発音する傾向も出てきているようで、はっきりと「コンニチワ!」と聞こえるようになり、「こんにちは」は「こんにちわ」と書いても通じるようになってきているのである。
さて、なぜ私が「こんにちわ」と書くようになったかというと・・・。それは、今からかなり前の出来事が原因。
「みなさま、こんにちは。今月は金星がナントカカントカで、火星がホンニャラカンニャラで・・・」という原稿を某編集部に送ったところ、編集担当者から指摘。
「秋月さやか先生
『こんにちは』と『こんにちわ』の2つの言葉遣いがあるかと思いますが、一般に若い年代層はコンニチワで、35歳以上はコンニチハが多いということです。今回お願いしております掲載誌は20代の女性が中心となります。できましたら、若い年齢層にアピールするようなイメージで・・・」
つまり、若い子向けに「こんにちわ」に書き換えてください、という依頼である。「こんにちは」という言葉遣いでは、なんとなく年配者の説教っぽくなってしまうので・・・という懸念らしい。「こんにちわ」って間違っていますよ、とも伝えたのだが、担当者は引き下がらなかった。「言葉は時代と共に変わります!」というのである。たしかに。そして私は文部省ではない。従って「こんにちわ」をOKするしかなくなった。仕事を失うわけにはいかず、渋々。
「秋月さやかという筆者は、正しい日本語が書けないヤツである」と評されるだろう、という恐れは当然あった。たぶん、どこか陰ではそう評されていたに違いないのだが、それは特に問題にもならず、そしてそのうち、私はそんなことはどうでもよくなってきた。なぜなら、「こんにちわ」をはるかに越えるような日本語事件に多々遭遇するようになり、「こんにちわ」がちっとも気にならなくなっていったのである。
・・・ということを、私は久々に思い出した。そう。ちょっと忘れかけていた。
改めて字面を見直してみると・・・「こんにちわ」のほうが「こんにちは」に比べると、溌剌として愛嬌のある雰囲気である。
「わ」のところで、口をしっかりと開けてニコッと笑顔を見せているような雰囲気すらあり、うん、カワイイ。「こんにちわっ!」と、溌剌とした若い女の子のイメージである。
それに比べると「は」は、端正で丁寧だけれど、スキがない女性のような雰囲気。「いらっしゃいませ。こんにちは。」とすっと挨拶されるようなイメージ。
う〜ん、どっちの女性のほうがいいのだろうか・・・。どうも最近、「こんにちわ」のほうが可愛らしい、と心惹かれるようになっているみたいです、私。
秋月さやか
参考文献: 「よくわかる音声」 松崎寛 河野俊之 (株)アルク
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